寿温泉

流川通りからアーケードをほんの少し南下し左へそれると、楠町二区公民館と書かれた表示の建物がある。妻壁に掲げられた表示には合わせて寿温泉と書かれている。入ると受付がある。この日は別府温泉まつりで無料開放のためか、無人だった。




浴室は右手奥に進んだ先にある。扉を開けると時代を遡る情景が飛び込む。1924年(大正13年)に建てられたという浴舎は刻んだ年月の長さを入浴者に無言で伝える。鶯色に塗られた壁の浴室は脱衣所と一体で、洗い場と脱衣スペースとの間には衝立が設けられている。しぶきが飛んでこないようにとの気遣いだろう。



浴室窓枠は上部が四辺で構成され、アーチ形を見せる。凝った意匠は現代建築物では出会えない。住民によって大切に維持されてきたことが窺える。
浴槽は年季が入り、内部は温泉成分が染み込んでいるようだ。満たされる湯はやや熱め、壁の蛇口からホースが伸び加水できる。自家源泉だ。片隅には枡が設けられ給湯量の調整が可能となる。身を沈める。印象は素直だ。臭いはなくほぼ透明だ。



心を奪われながら90年余りの歴史を刻んだ浴室を眺めていると、温泉を中心にはぐくまれてきた文化の存在を意識させられる。





建物の裏手に回り改めて浴舎を観察してみる。大正時代に造られた建物に見られる妻壁のデザインやアーチ型の窓が惹きつける。改造や増築の形跡はあるものの、建築当時の意匠を可能な限り残そうとした人々の思いが垣間見える。




別府温泉まつりにて入浴。無料開放の日にて、感謝。


別府温泉 寿温泉
別府市楠町11-15
ナトリウム・マグネシウム・カルシウム-炭酸水素塩泉
51℃
シャンプー類なし ドライヤーなし
内湯
200円
8:00~22:00
休:10日、25日
2019/4/4

梅園温泉

2016年4月に発生した熊本地震で浴舎は被災、その後解体されたが、全国からの支援によって2018年12月に再建された。旧浴舎が建っていた場所だ。のんべぇ路地裏の風情が残っている。



この日は別府温泉まつりで無料開放、来訪者で賑わっていた。浴室はコンパクト。浴槽は5人ほどが限界で、番台に座った20歳代の女性がコントロールしていた。



浴室はベージュと白でまとめられ、落ち着いた風情。浴室の隅には枡が設けられ、湯量と湯の開閉が調節される。再建されても別府ならではの仕組みは残されていた。
自家源泉。無色透明で無臭、癖のない素直な印象の湯だ。常連の方によれば今日の湯温は低いとのこと。同感だった。



浴舎の前には足湯が設けられている。「お福の足湯」と名付けられている。気軽に温泉を楽しめるようにとの気遣いだろう。足湯の壁に細かい飾りタイルが貼られている。



描かれているのは金魚のようだ。近所の方によれば、戦後間もない頃に北九州で焼かれたもので、ある人が大切に保管していたとのこと。貴重らしい。


別府温泉 梅園温泉
別府市元町541-3
単純温泉
46.3℃
シャンプー類なし ドライヤーなし
内湯
300円
11:00~23:00
2019/4/4

雲泉寺温泉

別府湾からまっ直ぐに延びる流川通りの終点近く、朝見川に架かる橋の手前左側に共同浴場がある。別府市内に見られる公民館併設とは異なり、木造平屋建て単独の浴舎だ。屋根には湯抜きが設けられ、懐かしい風情が漂う。
無人の受付、木製の靴箱、木製の脱衣棚が迎える。光が差し込む天井を木造トラス構造が支える。





仕切りはあるものの脱衣所と浴室は一体化した空間だ。浴槽は男女を分ける壁沿いに張り付く。内側は水色のタイルで、3・4人も浸かれば満員になりそうだ。
満たされる湯は無色で気に止まる臭いも味も感じ取れない。体を沈めても至って優しい印象だ。掲示されている温泉分析表には雲泉寺泉源と記載、朝見川の上流にある市有雲泉寺泉源からの引き湯と思われる。湯を供給するには床に設けられたレバーを操作するようだ。別府の共同浴場で見られる木の棒ではなかった。





浴舎内部を見回していると落ち着く。安堵感さえ覚える。長い年月が重ねられ今日の日に至っていることが連想された。
ありがたいひと時を今年もいただいた。別府の人々に感謝。


別府温泉 雲泉寺温泉
原町2-10
単純温泉(雲泉寺泉源)
64.1℃
シャンプー類なし ドライヤーなし
内湯
100円
6:30~22:30
2018/3/31

餅ヶ浜温泉

国道10号線に沿う若草町に餅が浜児童公園がある。公園は町の北部に位置する。その公園から西を向くと、アパートや通りを挟んだ視線の先にクリーム色の建物が立つ。施設の名称が壁に書かれているので迷わない。2階建てで1階が浴場だ。




浴舎に入ると左手に受付がある。右手には脱衣所入口を知らせる暖簾が下がる。透明ガラスを介して浴場が見える。暖簾をくぐると細長い脱衣所だ。木製の脱衣棚に衣服を重ねる。先客入れ替わりに貸切となる。浴室と脱衣所は仕切られている。扉を開けると浴場だ。



浴室は東西に細長い。窓の壁に沿う浴槽に満たされている湯は極々うっすら茶色を帯びている。手にすくってみる。臭いはないようだ。洗い場にはコック式の蛇口が用意されているがひねっても湯は出ない。かろうじて落ちた滴たちを舌にのせる。これといった味は感じない。訪問時は12時を過ぎた頃、この時間帯は源泉が止められているようだ。




掲示されている温泉分析表から自家源泉を有するようだ。温泉の使用状況に関する掲示によれば加水も消毒もされずそのまま浴槽に供給されている。源泉温度が入浴に適した温度に近いことがなせる業かもしれない。源泉が供給されているときにぜひ再訪したい。


別府温泉 餅ヶ浜温泉
若草町3-21
ナトリウム・マグネシウム・カルシウム-炭酸水素塩泉
44.0℃
シャンプー類なし ドライヤーなし
内湯
100円
6:30~22:00(12:00~14:00は給湯停止)
休:第3水曜日
2018/3/31

若草温泉

境川の左岸、国道10号線と接する街区は若草町という。新境橋の袂にあるガソリンスタンドから西へ折れて間もなく深いエンジ色の建物が見つかる。1階が浴場2階が公民館だ。




扉を開けると脱衣所、暗い。晴天の昼間だが暗い。木製の棚に服を重ね浴室に入る。脱衣所と浴室は完全に仕切られている。
浴室は暗い。高い位置に設けられた4つの窓から明かりは取られているが暗い。スイッチを探すが見つけられない。諦めてかかり湯をする。
熱い。辛抱できる程度の熱さだったので身を沈める。ほぼ透明と思える。源泉枡から汲み上げてみる。臭い、味ともにこれといった特色は感じ取れない。肌に残る個性もなく至って素直だ。



掲示されている分析表によればナトリウム・マグネシウム・カルシウム-炭酸水素塩泉という泉質でPH7.7だ。温泉成分が浴槽にこびりついているかもしれないというような期待を持ちそうだが、体感する限りにおいては素直だ。




若草温泉は自家源泉、湧出地は敷地内のようだ。引き湯が珍しくない住宅街の共同浴場で自家源泉で維持されていることに敬意を覚える。
浴室の明かりスイッチは入り口の左上部にあった。見落としていた。


別府温泉 若草温泉
若草町9-37
ナトリウム・マグネシウム・カルシウム-炭酸水素塩泉
47.4℃
シャンプー類なし ドライヤーなし
内湯
100円
6:00~23:00
2018/3/31


富士見第二温泉

富士見通りとJR日豊本線が交わる地点の北西街区に浴場はある。理髪店の隣に立地する建物は2階建てで1階が浴場である。11時から14時までは掃除のために施錠され休みとなる。




中に入り左へ進むと男湯である。思ったよりも内部は広い。靴置き場、脱衣棚とも使い込まれ古い。脱衣所と浴室は一体化し階段を5段ほど降りると浴槽が待つ。



浴室は浴槽や床、腰高までの壁などは改修されている。もともと入口や脱衣所は水色、浴室は白を基本とした色合いで、未改修と思われる天井の意匠には味わいがある。浴場の床面が低いこともあって浴室の天井は高く感じる。正面と左側の壁はそれぞれ横2間、縦4段の窓ガラスが設けられ浴室は明るい。



浴槽はほぼ中央に配置され、透明の湯が満たされる。源泉枡から汲み上げてみる。特段の臭いや味を感じることはない。至って素直な印象だ。加水されているらしく浴槽の湯は適温だった。源泉は鶴見園第1泉源で引き湯されているようだ。



多数の利用を想定した規模の共同浴場だ。富士見通りを挟んだ南側には第一富士見温泉がある。


別府温泉 富士見第二温泉
富士見町1-16
単純温泉(鶴見園第1泉源)
58.5℃
シャンプー類なし ドライヤーなし
内湯
100円
6:00~11:00・14:00~23:00
2018/3/31

南的ヶ浜温泉

北浜ホテル街の北隣、的ヶ浜公園と日豊本線の間には駅から延びる県道32号沿いの賑わいとは無縁の街並みが続いている。住宅や商店が規則正しく並ぶ街区は穏やかな落ち着きと活気が不思議な調和を醸している。一方通行で規制された曙通りを歩いていくと古いがモダンな造りの浴舎が見えてくる。自家源泉を有する南的ヶ浜温泉だ。




立派な構えの入口を入れば番台が待つ。どうやら無人のようだ。料金箱が用意されているので、臨時入浴者は100円を投入する。向かって右が男湯だ。脱衣所には白い木製の脱衣棚が並ぶ。壁際には木製の長椅子が横たわる。至ってシンプルだ。



脱衣所と浴室は仕切られている。引き戸を開けると湯気が満ちた浴室が現れる。角を丸めた浴槽は別府の共同浴場では大きい部類に入るだろう。10人ぐらいは入れそうだ。左隅には源泉枡がありこちらで浴槽への投入量を調整する。南に向く窓からは日差しが差し込む。
熱い湯が浴槽を満たす。源泉枡から汲み上げて臭いと味を試すが、激熱のため臭いも味も感じ取れない。番台の上部には加水あり、消毒なし、循環なしと掲示されている。敷地内で生まれた源泉がそのまま供給されているようだ。分析表には「南的ヶ浜温泉」と源泉名が記されている。




浴場には次々に客が来る。私のように温泉まつりに誘われてのことだろう。


別府温泉 南的ヶ浜温泉
南的ヶ浜町4-8
ナトリウム・マグネシウム-炭酸水素塩泉(自家源泉)
57.3℃
シャンプー類なし ドライヤーなし
内湯
100円
10:00~22:00
休:第1・3日曜日
2018/3/31